“Health is a state of complete physical,
mental and social well-being
and not merely the absence of disease or infirmity.”
「健康とは、単に疾病や病弱でないということではなく、
身体的、精神的、社会的に
完全に良好な状態(well-being)にあることをいう。」
出典 : WHOの健康の定義より
「ペット心療内科」の概念・診療理念
1.ペット心療内科とは
「ペット心療内科」は、ペットの身体的な疾患だけを診るのではなく、心身、行動、生活習慣、生活環境、飼い主・家族との関係性を含めて、ペットの健康を包括的に捉える診療領域である。
ペットの心身の状態は、食事、運動、睡眠、生活リズム、住環境、飼育環境、ストレス、社会的なつながりなど、日々の生活と密接に関係している。
そのため、症状そのものだけを見るのではなく、「その症状がなぜ生じているのか」「ペットを取り巻く環境に何が起きているのか」という視点から、身体・心理・行動・生活を総合的に評価する。
2.人・動物・環境のつながり
人、動物、環境は独立した存在ではなく、相互に影響し合っている。
特に家庭で暮らすペットにとって、飼い主や家族との関係、家庭内の環境、生活リズム、家族の心理状態は、日常生活を構成する重要な要素となる。
飼い主や家族の不安、緊張、ストレス、生活上の変化などが、ペットの行動や心身の状態に影響することもある。
したがって、ペットに現れた症状や行動を、ペットだけの問題として切り離して考えるのではなく、**ペットと人、そして環境との相互作用の中で理解することが重要である。
3.児童精神医学との共通性
この考え方には、児童精神医学・児童臨床との共通点がある。
子どもは、自分の苦痛やストレスを十分に言葉で表現できないことがある。その場合、心理的な負担が、身体症状、睡眠の変化、食欲の変化、行動上の変化、不登校など、さまざまな形で現れることがある。
ペットもまた、人間のように「何がつらいのか」「何にストレスを感じているのか」を言葉で説明することができない。
そのため、ペットの身体症状や行動変化を、単なる問題行動として扱うのではなく、身体・心理・行動・生活環境から総合的に読み取る視点が必要となる。
4.飼い主・家族との心理的相互作用
ペットと飼い主は、日常生活の中で非常に密接な関係を形成している。
そのため、ペットの状態だけでなく、飼い主・家族の心理状態、生活環境、家庭内のストレス、人と動物との関係性なども、診療上考慮すべき重要な要素となる。
飼い主が抱える不安や困りごと、ペットとの生活上の悩みについても必要に応じて丁寧に把握し、ペットの診療と飼い主・家族への心理的支援を切り離さずに考える。
5.ライフスタイル精神医学との関連
米国精神医学会(American Psychiatric Association)が扱うLifestyle Psychiatryでは、精神的・身体的健康を生活全体から捉え、身体活動、栄養、睡眠、ストレス管理、社会的つながり、環境・有害曝露等の生活要因を重要な要素として扱っている。さらに、従来の生物・心理・社会モデルを発展させた、生物・心理・社会・ライフスタイルの統合的な視点が示されている。
「ペット心療内科」は、このような包括的な考え方をペットとその家族の生活に応用し、
* 食事・栄養
* 運動・散歩
* 睡眠
* ストレス
* 生活リズム
* 住環境・飼育環境
* 心理・メンタル面
* 行動
* 社会的なつながり
* 医療
* 予防
* 健康維持
などを相互に関連する要素として捉える。
6.診療の対象
「ペット心療内科」における診療・支援は、ペットだけを対象とするものではない。
ペットを中心として、
ペット ― 飼い主 ― 家族 ― 生活環境
という関係性全体を視野に入れる。
必要に応じて、飼い主・家族の不安、悩み、困りごとに対するカウンセリング、心理的支援、心理療法等も行い、ペットと人の双方の生活の質と心身の健康を支援する。
7.「ペット心療内科」の診療範囲
具体的には、以下を含む。
* ペットの身体的・心理的な不調の診療
* 診察・検査・診断・治療
* 健康管理・疾病予防・健康維持
* 行動・ストレスに関する評価および支援
* 食事・栄養に関する助言
* 運動・散歩に関する助言
* 睡眠・生活リズムに関する助言
* 住環境・飼育環境に関する助言
* ホームケアに関する指導
* ペットのライフスタイル全般に関する支援
* 飼い主・家族の不安や悩みに対する相談・心理的支援
* ペットと飼い主・家族との関係性に関する支援
* 獣医師、愛玩動物看護師、ブリーダー、ペットショップ、ペットオーナー、里親等への専門的助言
8.基本的な考え方
「ペット心療内科」は、ペットの症状を単独の疾患や問題行動として捉えるのではなく、
身体 × 心理 × 行動 × ライフスタイル × 環境 × 人との関係性
という複数の要素から総合的に捉える診療を目指す。
ペットが言葉で表現できない苦痛やストレスを、身体症状、行動、生活の変化などから読み取り、その背景にある環境や人との関係性にも目を向ける。
それによって、単に症状を治療するだけではなく、ペットと人がともにより健やかに生活できる状態を支援することを目指す。
「ペット心療内科」は、動物の身体疾患のみを扱う従来型の内科診療とも、問題行動だけを扱う行動診療とも異なり、ペットの心身と、そのペットを取り巻く人・生活・環境を包括的に捉える診療概念として位置づける。
9.One Health ― 人・動物・自然をつなぐ
ペット心療内科では、健康を身体だけの問題として捉えない。
身体・心理・行動・生活・社会・環境は相互につながっている。
人と動物もまた、互いの心身、行動、生活に影響を与え合う。
さらに、その生活を包む自然環境とのつながりも、健康の重要な一部である。
自然の中で歩く、走る、遊ぶ、探索する、匂いを嗅ぐ、光や風を感じる。
それは単なる「運動」ではなく、動物本来の行動と感覚を取り戻し、人とのつながりを育み、生活そのものを豊かにする。
これは、Lifestyle Psychiatryが重視するphysical activity、stress、sleep、nutrition、social connectedness、environment
との6つの関係とも通じる考え方である。APAのLifestyle Psychiatryでは、connectednessの中にconnection to natureも位置づけられている。
ペット心療内科は、こうした視点で人・動物・自然環境の相互関係として捉える。
人の健やかさは、動物の健やかさにつながる。
動物の健やかさは、人の健やかさにつながる。
そして、健やかな人と動物の暮らしは、健やかな自然環境と切り離すことができない。
人・動物・地球。
そのすべてを一つのつながった健康として考える。